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白いかげぼうし


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4年生が、あまんきみこさんの「白いぼうし」を学んでいる。これは昔からある教材で、私も4年生を持つたびに教えた覚えがある。実は、かなり多くの小学校で、この「白いぼうし」をやる前に、3年生で「ちいちゃんのかげおくり」を学ぶ。どちらもわかりやすく、決して悪い教材ではない。しかしこの2作品の作者がともに同じで根底に流れる共通の思想やトーンがあるということには、いささか問題を感じていた。

1年間に数本の物語しか扱わないぺらんぺらんの国語の教科書の中で、この偏りはある意味、普通ではない。ところが、この2作品は、他の教材が改訂の度に入れ替わっても、しぶとく残り続け、とんでもなく長い期間掲載されているのだ。それだけ多くの人に支持されているのだろう。私も嫌いではない。せっかくなので、この奇妙な現象とお話の内容を検証してみようと思う。
 
 まず、あらすじの確認から。

 ちいちゃんのかげおくり

よく晴れた日に地面に映った自分の影を見つめて、一気に空などに視線を移して残像現象を楽しむ「かげおくり」という遊びがある。ちいちゃんは、お父さんの出征の前日にこの遊びを教えてもらい家族でやってみた。病弱なお父さんが出征するほど戦争は劣勢に傾き、いよいよちいちゃんの町にも空襲が襲う。ちいちゃんはお兄ちゃんと一緒にお母さんに手を引かれて逃げるが、人ごみのなかではぐれてしましまう。翌日、ちいちゃんが自分の家があった所に戻ったときには、そこはすでに瓦礫の山。「お兄ちゃんとお母さんはきっと帰ってくる」ちいちゃんはそう信じて、防空壕でかげおくりの遊びを思い出しながら、ゆめとうつつが重なる中で息をひきとる。

 白いぼうし

 実家から送られてきたもぎたての夏みかんを載せてタクシーを運転していた松井さん。道端に落ちていた白いぼうしに気づき、車を止めて手に取った。すると、その白いぼうしの中から一羽のチョウが飛び出す。せっかく捕まえておいたチョウがいなくなってはがっかりするだろうと、松井さんはチョウに代わりにタクシーに乗せていた夏みかんを置いて、白いぼうしをかぶせる。タクシーに戻った松井さんは、救われたチョウの化身である少女と不思議な会話を交わす。そして、少女の指示通りに向かった小さな団地のまえの小さな野原で、おどるようにとんでいるチョウのシャボン玉がはじけるような小さな喜びの声を聴く。


物語の冒頭では、タクシーに乗っていたお客さんの気づきが、このお話全体の漂う夏みかんの爽やかな香りを読み手に意識させる。このお話の舞台を、戦後の東京だとするなら、堀端、すなわち皇居のそばで乗せた紳士は、国や権威の象徴とも読める。

満州生まれの作者が、自らを侵略者として先の戦争を振り返り、生き残った後ろめたさを、主人公の無垢な少女をあえて殺すことで昇華させた贖罪の物語として、「ちいちゃんのかげおくり」は紡がれているわけだ。

そして、「ちいちゃんのかげ」は、戦後の復興した町に、チョウの化身として現れる。白いぼうしの持ち主である「たけやまようちえん・たけのたけお」と命名された少年は、男性原理の象徴であり、未来の兵士の姿でもある。

そのような理由からだろうか、「あまんきみこはサヨク作家」などと酷評する連中もいるが、私は単純にそうは思わない。私はサヨクもウヨクも嫌いだ。片方の羽ではチョウも空は飛べない。

そして、あまんさんが描いた松井さんのやさしさは、決して否定されるべきものではないからだ。仕事中でありながら、路上の白いぼうしに心をとめ、チョウが飛び立ったことにも持ち主の少年を気遣い、図らずもチョウを助けてしまう松井さん。

白いぼうしは、無力なチョウを閉じ込めるに十分な檻である。そこに母から送られて来た夏みかんを入れておくことは、不当な力に対するささやかな抗議のメッセージでもある。

しかし今、あえて言うなら、戦後民主主義の甘ったれた感性にフィットしすぎるこの種のセンチメンタリズムは、もう通用しない時代が既に来ていると言わざるを得ない。この2つの物語はあまりにも象徴的だ。小学校の国語の中で使われ続けたのもよくわかる気がする。

とは言え、どこかの国のように、とことん自国の犯罪を正当化したり、敵国を嘲弄したりするような物語を子どもに教えるのではなく、こうした自己完結型の物語で死者を悼み、ほんわかと実態のない平和を願うところに、日本人のメンタリティーの切なさがある。
Commented by lastsalt at 2016-05-03 08:51
そんなふうには読み取ったことがありませんでした。
おもしろい…、なるほど。
Commented by lastsalt at 2016-05-03 08:52
あっ、硬派銀じ郎です。
Commented by 彷徨坊主 at 2016-05-03 09:03 x
草野さん、あまんさんと とっても勉強になりました。今年は四年の担任なんでもっともっと教えて下さいね。
お願いします。
Commented by lastsalt at 2016-05-03 10:56
銀じ郎さん、田舎でゆっくりされてますか?この年になると、少年時代を過ごした異空間があるというのは、羨ましい気がします。私は点々としてますから。

いろいろと思うところは、まめに書き残しておこうかなと思います。また、ご意見をお聴かせください。
Commented by lastsalt at 2016-05-03 11:00
4年生の学級担任、楽しそうですね。いろいろ気になる教材があれば教えてください。

私は今年も特別支援+特命係です。それなりにゆるく、そしてきびしい。相変わらず、傍目にはパッとしない感じですが、おかげさまで、息を潜めて楽しんでます。
by lastsalt | 2016-05-03 00:20 | Comments(5)