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by lastsalt

「新しいうた」を歌え


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「ことばをどうやってリズムに乗せるか」言い換えれば、「日本語でいかにビートを生み出すか」といいう問題は、実に大きなテーマだった。私自身もこの大きな壁の前で悶絶し、様々な試行錯誤を試み、ようやく自分のことばが最も素直に旋律と結びあうかたちをボサノヴァの中に見い出した。

はっぴいえんど時代からの大瀧の盟友であり、彼の楽曲の大半を作詞した松本隆が語る。「はじめ、日本語はリズムに乗らないという定説をくつがえすことからはじまった。語の区切り方とか乗りやすい言葉を日常会話や、果ては死語の中から探すという作業からその指向が始まった。そのことを考えれば、日本語でロックを歌うことはかなりテクニカルな問題だった」

これはその後、デタラメことばでサウンドを重視して歌う桑田の感覚的な方法とは対局にある理詰めの作業である。このはっぴいえんどの試みがベースにあって、それから「A LONG VACATION 」と「EACH TIME」が生まれる。この2枚のアルバムにはインストゥルメンタル・バージョンもあるが、その2枚を聴き比べた印象は殆ど変わらない。それほどこだわって作られた歌詞なのに、なくても同じ印象を聴き手に与えるのは、「歌詞が全く曲の中に溶け込んでいるからだ」と、社会学者の小川博司は言う。つまり、松本の歌詞とともに、それを溶かし込んでしまう大瀧の楽曲やアレンジがいかに卓越したものであるかということを意味する。

小川氏は、「はっぴいえんど」時代に彼らが試みたことを次のようにまとめている。
①日本語をローマ字読みしたこと。漢語、擬声語、擬態語などn音のある語を用い、音節を減らした。「・・・んです」の多用。例えば、mi-e-ta-no-de-suから、mi -e-tan-de-suという様に6音節から5音節にしている。②意味のまとまりから自由に区切ったこと。③標準アクセントから自由になったこと。④言葉の意味、言葉の音(サウンド)風景=身体=リズムの三位一体的な結合を試みたこと。松本はまず視覚的な風景を思い浮かべ、その風景と音風景を媒介するものとして自覚的に歌詞を書いている。(「音楽する社会」小川博司著より)

「A LONG VACATION 」と「EACH TIME」という2枚のアルバムは松本の歌詞の力が大きい。彼はドラマーであり、ことばの感覚も卓越している。また、大瀧が最も得意とするアメリカンポップスから歌詞の影響を受けず、むしろ大正時代の日本の詩人を参考にしたと語っている。実にユニークなエピソードだ。大瀧の曲も松本の歌詞も単独ではこれほど歴史的価値のある作品にはならない。

私がなぜ多くのエネルギーを費やしてSalt&UribossaやPruneをやっているかも、そのあたりに理由がある。音楽は人と人の出会いだ。その出会いの中で互いの感性がぶつかり高めあう。そこに生まれる調和が気持ちよく、また美しい。銀じ郎さんとの対談も同じ。そして、ふたりが見つめている指揮者が奏でたい音楽が大事なのだ。
by lastsalt | 2014-01-03 11:07